墨田のまちを動かす“仕掛け人”、三田大介さん

カテゴリ: すみだの人々

目次

地域の力を引き出し、クリエイティブでイノベーションを起こす

有限会社モアナ企画 取締役の三田大介さんは、墨田生まれの墨田育ち。地域活性化に関わる企画・デザイン・コンサルティングを手掛け、墨田区の福祉施設の商品づくりプロジェクト「すみのわ」のコーディネーターや、個店の課題解決を支援する墨田区商業コーディネーターとしても活躍しています。

街や人々の持つ個性や課題を掛け合わせ、クリエイティブの力で新たな可能性を引き出す三田さん。第1回目となる“すみだの人々”。今回は、三田さんの挑戦とビジョンに迫ります。

—三田さんの仕事について教えてください

「コーディネーターがひとつ。あとはプロデューサーのようなこと。自分単独だけでなくいろんな人と求められるものに対してそのときに応じてチームを組んでいっしょに何かお仕事をさせていただく。またコーディネーターの場合はヒヤリングをする中でどういうことに困られているか確認して、『こういう人や事をお繋ぎするといいですね』とサポートをしていきます。人の繋ぎ役だけでなく制度であったり、ちょっとしたことも。いろいろではあるんですけど、そういうところ全般を担当させてもらってます。」

—どのように墨田の地域と関わり合いを持ってきたか教えてもらってもいいですか

「出身が元々八広で。独立する前、最後に勤めてた仕事はデザイン事務所でした。そこが土木分野のデザインを行う事務所で、いわゆるインフラ系のまちのいろんな、トンネルだとか橋だとか高速道路を手がけていました。そのなかでひとつ担当することになったのが、再開発の工事現場をデザインするっていうものでした。それも新宿の南口。今のバスタ新宿あたり。あそこは甲州街道が通っていて下に線路が何本も通ってる。交通の結節点が故になかなか工事が進まない。ちょっとずつしか工事をできないので16年間も工事期間だったんですね。ずーっと何かしら工事をしている現場だったので、そこに対してデザイン事務所として、工事現場自体をデザインするのはどうでしょうという提案をしたんです。それで3年くらい掛けたプロジェクトで仮囲いをデザインするのをやってました。」

—そのプロジェクトが三田さんのなかで大きかったのでしょうか?

「そうですね。新宿の“今”を表現しようというプロジェクトに取り組みました。新宿の“今”とは、そこで生きる人たちの姿だと捉え、歌舞伎町、西口高層ビル街、ゴールデン街、2丁目などを巡り、約150人にインタビューを行いました。写真家の方と一緒に取材に回り、彼らの姿を写真に収めました。それまでは机上で設計図を描き、ゼネコンが作るという仕事の仕方が多かったのですが、この時は街の人と直接触れ合うことで、まちに飛び込む感覚を味わいました。そしてちょうどその頃、スカイツリーの建設計画を知り、地元でも何かできるかもしれないと思い、同じように墨田の街に関わるために仕事を辞め、地元で活動することになりました。」

—地元だからすぐに関係性も見つかりそうですね

「もともと墨田の人との関わりが少なかったんです。中学から私立に通っていたので地元の縁も少なく、どうしようかと思いましたが、まずは人と繋がることを意識して動きました。その中で、『配財プロジェクト』の立ち上げにも関わるようになりました。同世代の製造業の後継者たちと話が弾んで。町工場の廃材を活用するこのプロジェクトは、3年間ほど関わった後、製造業者との繋がりが、現在取り組んでいる『すみのわ』に活きるようになりました。現在も廃材を使ったプロダクトを制作するなど、様々な取り組みを進めていますね。」

すみだクリエイターズクラブのパンフレットを見ながら話していきました

トライ&エラーを繰り返して〜仕事のはじまりからすみのわまで

—有限会社モアナ企画の始まりも教えてもらえますか

「親が経営していた会社なので創業20年くらい経っているんですけど、親が亡くなっタイミングで、ちょうど新しく自営で仕事をしたいと思い、自分が引き継ぐことにしました。2014年からで今年で10年くらい。元々親もイベント業で人と人を繋ぐという点では自分も血を引き継いでいるのかなって思ってます。」

—先ほどお話に出てきた「すみのわ」について聞かせてください

「2014年に墨田区の事業として始まった『すみだの輪』、略してすみのわ。ネーミングは立ち上げメンバーであるコピーライターの三井千賀子さんが考えてくれました。福祉作業所でのものづくり経験がない中での挑戦でしたが、社会的に意義のある興味深い課題でもあったので取り組んでみました。はじめは模索の連続で、半年ほど福祉事業所のリサーチを行い、事業所の特徴や設備、職員さん、利用者さんの状況を調べることからスタートしました。」

—半年かけてリサーチはすごいですね。

「はい、けっこう時間をかけました。2年目のときにプロダクトデザイナーの關(せき)真由美さんがこの事業に加わってくれるようになりました。關さんはデザイン会社を主宰されているのですが、最近では墨田区の町工場から提供された素材をこどもたちが自由に使ってあそべる『あそび大学』というすばらしい取り組みをされている方です。關さんが関わってくれるようになったことで、プロダクトデザインにしっかり取り組むようになりました。」

—すみのわの商品の購入はどちらでできるのでしょうか

「定期的に購入いただけるのは、墨田区役所の1階に火曜日と木曜日に出店するスカイワゴンとなります。そこで販売しているあげもちのラベルは、關さんがデザインしています。」

—曳舟のイトーヨーカドーで行われていた無印良品主催の「つながる市」にも出られてましたよね

「そうですね。私たちはあくまで裏方で、活躍するのは福祉事業所の職員さん利用者さん。私はコーディネートとして活躍の場をお繋ぎし、『こんな場所で販売させていただけるお話があるのですが、よかったら出店しませんか?』と福祉事業所の方々にお声がけをしました。そして、普段福祉にあまり接点のないような方も多く来店されるあのような場所でも販売の機会をいただくことができました。」

すみのわの商品たち
向島の紅茶専門店「一軒家カフェikkA」と生活介護施設「亀沢のぞみの家」がパッケージでコラボした商品のティーバッグ
錦糸町の福祉事業所「ひだまり工房」の商品の販売コーナーの様子
『すみのわPOP-UP ひだまり工房のアートなレザークラフト』
(10/2から11月末まで東京ミズマチの「コネクトすみだ[まち処]」で開催中)

地域密着プロジェクトと新たな挑戦とは

—会社を引き継いで約10年、墨田区で多くのプロジェクトを手掛けてきた三田大介さん。牛嶋神社で行われる「すみだ川ものコト市」や「すみだ3M運動40周年祭」など、地元に根差した活動について詳しく伺いました

「すみだ川ものコト市は、牛嶋神社で始めたクラフトマーケットなんです。この地域でクラフトマーケットをやりたいという人が増えてきたことがきっかけでした。そこで『やりたい人たちで集まってみよう』という流れになり、実現しました。『谷中ではお寺でやっている』『北品川では神社でやっている』という話を聞き、『神社仏閣だとイベントがやりやすいのでは?』という気づきがありました。調べてみると、神社やお寺は街の人のための場所でありながら民地扱いなので、公共の場所のような道路封鎖の許可申請が必要ありません。そのため、イベント開催が比較的容易で、これが神社仏閣でのイベントが多い理由ではないかとわかりってきました。メンバーの中に牛嶋神社の氏子さんがいたので、宮司さんに相談すると『ぜひ』という返事をいただけ、すぐに実現しました。最初は牛嶋神社の境内での開催から始めました。」

—「すみだ川ものコト市」は、現在では隣接する公園にも広がる大きなイベントになりましたね

「当初は牛嶋神社の境内を会場にこのイベントは始まりましたが、2、3回実績を重ね出店者が増えると、次第に隣接する隅田公園にも会場が広がりました。隅田公園が再開発が進行中なこともありすみだ川ものコト市はお休みしていますが、このイベントでの公園の活用方法も再開発へのヒントになったのでは…と感じています」と三田さん。

—手がけられた「すみだ3M運動40周年祭」のポスターについても教えてくださ

すみだ3M運動は、ミュージアム、マイスター、マニファクチュアリングショップの頭文字を取った、伝統工芸をはじめとしたものづくりの街をプロモーションするプロジェクトで、40年前に墨田区で始まりました。10月6日に開催されたすみだ3M運動40周年祭では、すみだクリエイターズクラブの仲間と共にその制作をお手伝いさせていただきました。そのポスターでは、小さな博物館の1つである「ちいさな硝子の本の博物館」を運営する村松栄理さんにモデルを務めていただきました。」

—ポスター制作でこだわった点は?

「伝統工芸というとどうしても伝統的で堅いイメージがつきがちですが、今回は女性モデルを起用し、新しいイメージのポップなカラーリングにしました。実際のものづくりの担い手の方がモデルになることで、地域の中でも応援ムードが高まり、盛り上がりが生まれました」と語る三田さん。

「ちいさな硝子の本の博物館」の村松栄理さんを起用したすみだ3M運動40周年祭のポスター

墨田の街をクリエイティブな力で盛り上げ続ける三田さんの挑戦は、これからも続いていきます。

「私も所属するすみだクリエイターズクラブには、墨田区に在住在勤のクリエイティブ職の人たちがメンバーとして参加しているのですが、その中でプロデュースやディレクションを担う人が比較的少ないのが現状です。そういった役割を担う人を増やしていく必要があると感じています。プロデューサーを見つけたり育成したりすることも重要ですが、異なる視点で営業マンとの連携を強化することも考えています。例えば、資金調達や補助制度の活用を提案し、顧客にとってメリットのあるプランを一緒に進めるなど、ビジネス全体を俯瞰しつつ、細部にもこだわる人材が必要です。」

—すみのわでは今後何か計画はありますか

「数年前にイベントなどで使っていただくための手作り品のノベルティグッズの受注生産販売をはじめたのですが、コロナ禍でイベントが全て中止になってしまいました。しかし、イベントも行われるようになったため、再び挑戦したいと思っています。障がいのある方による手作り品はどうしても製造する数に限界があるのですが、得意なことやできる範囲を見極めながら、無理なく持続可能な商品作りが何かを模索しています。具体的な取り組みの一つとして、ノベルティグッズでも“プリンタブル(※1)なもの”を考えています。印刷所などで量産できる商品は大口での受注に適しているため、福祉事業所の利用者さんによる絵を生かしたプリント商品も加えられればと思っています。また、『すみのわ』専用のカタログを作成する計画もあります。売れ筋の焼き菓子はセット販売も視野に入れています。10年前には手探りで進めてきた部分も多いすみのわですが、試行錯誤を続けて挑戦し続けています」

※1…印刷可能なもののこと。

—三田さんがコーディネートやプロデュースする際、気をつけている点があれば教えてください

「『すみだ』という限られたエリアで活動していると、どうしても限定化しやすいのが課題です。販売していただける場所もある一定のところに限られており、商品が飽きられてしまうこともありえます。さらに、活動している人たちが外部から刺激を受けにくい状況もあるので、他地域の人や事例、場所ともつながり、より多様な視点で新たなチャレンジをしていきたいと考えています。」

変わりゆく景色と、繋がる人々

—子どものころから住んで、そしてすみだに戻ってきて10年間過ごしていて、すみだの景色は変わってきてますか?

「街の変化は本当に大きいですね。スカイツリーが建つ前の場所は、東武線の車両基地や生コンの基地があった、いわば『街の裏側』でした。川も今より汚く、近寄る人も少なかったと思います。それが今では、川沿いが街の顔になり、『表』として機能しています。街がこんなにも変わるとは驚きです。」

—お気に入りのお店はありますか?

「曳舟の水戸街道沿いにある『東向島珈琲店』は、僕にとって特別な場所です。元を辿るとこのカフェとの出会いが、今の区役所と連携するプロジェクトや商業コーディネーターとしての役割に繋がりました。様々な縁と人を繋げてくれたこの場所は、まさに地元を代表するハブ的な存在です。」

—ご自身を突き動かす原動力は何ですか?

「やっぱり、みんなで何かを作り上げることが楽しいことでしょうか。それがすみのわやすみだクリエイターズクラブの活動にも繋がっています。すみのわは、ビジネスとして取り組んでいるので、売上が上がる手応えも大きなモチベーションです。継続してお仕事をさせていただいていることに感謝しつつ、これからも全力で取り組んでいきたいと思います。」

三田さんが繋げる街、人、そして新たなプロジェクト。まさに墨田の未来とすみだの輪は、これからも彼の挑戦と共に形作られていきます。

三田 大介

有限会社モアナ企画 取締役

墨田生まれ、墨田育ち。地域活性化に関わる企画・デザイン・コンサルティングを手掛ける。墨田区の福祉施設の商品づくりプロジェクト「すみのわ」のコーディネーター、墨田区商業コーディネーターとして個店の課題解決を支援。街や人の魅力や課題を掛け合わせ、クリエイティブの力でイノベーションを起こすことを目指す。

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すみラボ編集部員です。すみだエリアの情報を発信していきます